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昼休みに寝た話をします

ぼくの昼休みの過ごしかたは、図書館に行って読書をする、自習室に行って宿題をすます、イヤフォンをはめて教室で寝る、の大きくみっつに分けられる。どの選択肢にも自分以外の人間が登場しないのはご愛嬌だ。

で。今日の昼休みは、読みかけの本を忘れて、出すつもりの宿題もなかったから消去法で教室に残った。こないだ五千円弱で買った初代iPodのパチモン( 中国製)を起動してランダム再生ボタンを押せば、同級生の話声は「 そういやこんな曲入れてたな」的な印象のうっすい曲に上書きされて、そんでもってやっとぼくは安心して眠れるようになる。

数分経つと、枕にした腕の血流がちょっとずつ滞る、あの感覚が来る。ぴりぴり、ぴりぴりと、どんどん強くなって、限界まで達したところで今度は腕の感覚といっしょにすこしずつ消えていく、それと同期してぼくは自分がいまどこでどういう経緯で眠っているのかを忘れ、体全体が心臓とおなじリズムで脈動しはじめたかと思うとこんどは浮遊感につつまれて、考えごとがちょっとずつ整合性を失っていく、それを感じている間に眠りにつく。

寝てるのか寝てないのか判断のつかないところで、目が覚めたときぼく以外の世界のすべての時間が止まっていればいいと、半分夢をみるように考える。起きてみたらこの世界がまるっきり、ぴたっと静止していたらと。隣の席の生徒が気にする前髪はもう彼の目論み通りにはセットされず、雑に消されて白い竜巻みたいな模様になっている黒板はそのまま、旧校舎の屋根にとまるからすはもうどのゴミ捨て場も狙うことはなく、教室の隅っこで笑い合う男子バレーボール部員の会話は黒ギャルAVの話題から進まないし、夏がテーマのフリー素材じみてイラつく入道雲もそのまま形をとどめてくれたらいい。演劇部の女子部員の下品な笑い声も、怒っているのかそうでないのか釈然としない声音で生徒を呼びつける教師の校内放送も、窓外の国道を通る自動車のエンジンの唸りもそこにはないからイヤフォンだってもう必要ない。ぼくがその沈黙のさなかで目をさます。たぶん口をぽかんとあけて、口腔が乾いていくのを感じながら現状把握に努める。久々に自分の息の音を聞いて驚いてみたり、なんでもないふうを装ってまた寝たり、勉強をはじめてみたり。そんでもたぶんしばらくしたらなにか耐えきれなくなる。ヤケクソになって机のうえの消しゴムを投げる。でもそれも落下するまえに空中で、放物線を三分の二も描ききる前に静止する、ぼくはそれをつかんでみようと席を立つ。消しゴムはたぶん、ぼくが触れば思い出したように床にぼとりと落ちる。そのとき、きっとぼくの耳は、その音さえもうるさく感じるようになっている。

……と、いうふうだったらいいなーと思いながら、でも実際はいつも通りに、せっかく五限目始業のチャイムの音を爆音でかき消してもクラスメイトがいっせいに椅子をひいて立ち上がるのが床から伝わって目が覚める。ほかのクラスメイト全員といっしょに「 よんしゃんさしーす……」と八割がた吐息みたいな声とともに背骨をまげて座りなおす羽目になってその間にもそこここに時間は流れつづけ、汚かった黒板も日直の手によってずいぶんきれいになっていたりする。ぼくは前の席のクラスメイトにぎりぎり聞こえるかもしれないくらいの音量で死にてえ、と漏らしてまた机に突っぷす。ぼくの昼休みなんてのはまーだいたいこんな感じで、うえの必死こいた言いまわしはほんとうに昼休みにかんがえて授業中に整理したもんだったりする。