十月

今日は体育大会だった。残念ながら晴れた。遺憾ながら健康だった。ので、行った。

すこし走って、やや跳んだ。あとはじっとして長いこと本を読んだ。盛り上がる応援席のすみっこで、ひとりだけ葬式会場にいる( 葬られる側で)みたいな顔で村上春樹を読んでいると、ひどく悲しかった。自分だけ世界からすっかり切りはなされたみたいだった。

それは錯覚だったとしても、実際、ぼくは完璧に学校世界からは切りはなされていた。体育大会のときにこんな辛気くさいツラして本なんか読んでいるやつはどうもいなさそうだった。ぼくはあきらかに浮いていた。でもべつに中学のときみたいに嬉しくなかった。中二病は治ったわけじゃない。病状が複雑化したから、この程度では満足できなくなったんだ。

そういう考えごとをしていると、BGMのポップソングとナントカ先輩を応援する甲高い絶叫とが急に不愉快に思えてきて、ぼくは本を閉じて、騒音武装をした。秋の空は高い。なんで高いんだろう。単純に、見上げる機会が多いからだと思った。秋以外の季節に、その高さを思うくらいじっと空を見上げることなんてまずない。

記念写真撮影にも苦笑いで加わった。それから帰った。バスを待つのはたるかったので、道は釈然としないけど歩いて帰った。二時間かかった。周囲に誰もいないのを確認してから、そこそこの大きさの声でハヌマーンをうたった。Fuzz or Distortion、十七歳、とかそのへん。そういえば、ぼくが十七歳でいられるのもあと三十二日しかないんだ。そう思うと足の疲れもいとおしく思えてきた。錯覚だ。